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イサムノグチの彫刻が大好きです
旅先のふとした景色が記憶となり、その数が心を豊にするものだと思うことがあります。一番印象的な景色なんて選ぶことはできません。それぞれに思い出がありますが、つい先日もそんな心に残る景色を見ることが出来ました。
学生の頃から、イサムノグチの彫刻が大好きでした。切っ掛けは、何となく一人で入った美術館で偶然、彼の個展を目にしたから。
子どもの頃に近所の小さな美術館で、印象派の画家として知られるエドガー・ドガの彫刻を見たことがあります。それまでは「踊り子(バレリーナ)」を描く彼の画風が大好きでしたが、彼の彫刻した馬は手のひらサイズだというのに、今にも走りだしそうな躍動感。びっくりしました。そして彫刻とは写実的なものだというイメージも定着してしまいました。
そんなときに目にしたイサム・ノグチの彫刻は、空間を切り取るかのよう。写実的ではありません。彫刻を通して時間の流れが見えるような、そんなモニュメント。私の彫刻に対するイメージが一気に広がりました。
そんなイサムノグチの「最後の作品」の1つとして捉えられている札幌のモエレ沼公園へ一人旅をしてきました。「大地を彫刻した男」と評されることもある彼が設計に携わった公園です。彼自身は公園の完成を目にすることなく逝去しましたが、彼の想いは今も公園を維持する皆さまの心に生きていると思いました。
元々、ゴミ集積場であった公園は主に10の施設によって成り立っています。10の施設というと少し誤解が生じるかも知れません。そのうちの1つ「モエレ山」は人工の山です。なだらかに曲がりくねった遊歩道を登り切ると札幌郊外を一望することが出来ます。登り切るまでの間、何度も足を止めて振り返りました。歩くのに疲れたわけではありません。振り返る度にハッとする景色が広がるのです。それはクローバーの咲き乱れる草原だったり、だんだん小さく見える他の施設だったりするのですが、どのポイントで見ても、この景色を心に残したい、そう思える景色が広がるのです。何度も何度もカメラのシャッターを切りました。
モエレ山を登り始めたとき、重い灰色だった空がやがて薄くなり、ところどころから水色の空が見えるようになりました。モエレ山からの下りは階段を使いましたが、一段降りるごとに空が明るくなり、気がつくと青空に白い雲がぽこぽこと浮かぶ景色に。
そして、青空を待っていたかのように、公園のあちこちで草花や芝の手入れをする管理スタッフの方の姿を目にしました。空の色が何色でも、心に残る景色を、時間の流れさえも楽しめるような景色を設計したのはイサムノグチかも知れません。でも、その景色を維持するための努力を惜しまない管理スタッフの方々を目にして、また違った感慨を覚えました。
木立も何処を遮り、何処を通すのか、細やかな計算の上に植えられていると思います。そして遊歩道の位置も、人がどこでどんな風に振り返ったり空を見上げるのか、いろいろと想像しながら「大地を彫刻」したのでしょう。でも、おそらくイサムノグチ本人も理解していた通り、木立はいずれ成長していきますし、人も同じ場所に居続けるわけではありません。
それでも、「どこで見ても心に残る景色」を生み出しているモエレ沼公園は、イサムノグチの想いを心につなぐ方々があってこそ、今もいろいろな人に愛されているのだと。
札幌までは「日帰りで何度でも」といけるわけでもない私は、公園内を歩いて歩いて歩き通しました。そして日が傾きかけたころ、公園内の池「海の噴水」で「海の噴水」プログラムを目にすることが出来ました。すっかり青空が広がるようになってきて、公園の近所に住んでいる方々がジョギングをしたり、犬の散歩をしたりする中で、水が湧き立ち、流れ、やがて回帰するかのように静まっていく。時間は流れ続けるもので、決して止めることなど出来ないのでしょう。どの一瞬も前の一瞬と同じではない。でも、この一瞬、一瞬を大切にしていきたい。
初めてのモエレ沼公園を訪れてから、一ヶ月以上が過ぎようとしていますが、未だにその思いは、公園の数えきれないほどの景色とともに、心に残っているのです。
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